2014年2月4日火曜日

海外の日本語学習用教材の分析 - インドネシア編

こんにちは!
昨日の陽気が嘘のように、今日は関東にも寒波が到来
雪も降り、積もった所もあったようです





前回はAzuが発表担当した「韓国編」のレポートでしたが
今回は別のペアの発表内容についてレポートしたいと思います(^^)

まずはインドネシア編です!
今回は、観光専門学校で使われている教科書の紹介です





まず、インドネシアの日本語教育事情についてです。
主な学習者・現場は中等教育に偏っており、増加の傾向にあります。
これは2006年に施行された新カリキュラムによって第二外国語が選択必修となったことがきっかけです。

普通高校や宗教高校でどの程度言語教育が行われているかは未知ですね…
将来的に仕事で日本語が必要になるであろう専門高校の方が活発なのかもしれません。






















次に、『インドネシアへようこそ』の概要です。
これは観光専門学校で実際に使われている日本語の教科書です。

教科書の最大の特徴は、第1冊がローマ字表記、第2冊が平仮名表記されているところです。
<ひらがな→カタカナ→漢字>という流れで表記や発音を学ぶ教科書が多いのですが
観光業ということを意識してか、会話や聴くことに力を入れられるようにしている印象を受けます。
(非漢字圏の学習者には、文字学習だけでもかなりの負担になりますからね…)

観光サービスという、外国語の使用が必須になる仕事が見据えられているため
学習目標や内容も「観光」の色をかなり強く打ち出しています。























1課の構成は以上のようになっています。
導入→会話→語彙・文型→会話練習→確認問題の流れですね。

観光業務の具体的な場面が設定されているため
「どのようなシチュエーションでその表現が使われるのか」が分かりやすいと思います。

ただ、この1課に「5コマほどの時間をかける」と別冊の指導案には書かれているそう…
テキストの内容だけでは5コマも活動を創出できるのだろうかという疑問は残ります。




考察

(発表者より)
①実用目的でコミュニケーション能力向上が目的のようだが、内容が目的に適っているか?
 【良い点】
  ・導入で場面のイメージから学習内容を想起できる
  ・会話例や会話練習が自然な日本語に近い(例:「あ・・・」「~なんですが・・・。」など)
  ・卒業後の進路に密接している(実際に直面するであろう場面設定がなされている)
 【問題点】
  ・タスク活動が少ない=話す活動が少ない=やり取りがない(代入練習に留まっている)
   →コミュニケーション能力が向上するのか?
   →卒業してすぐ使える日本語を身に付けられるのか不明
  ・リスニングがない(テープを使うところがわかりにくい)
   →耳が育たない(実用目的だと「聞く」能力も必要では?)

   →聞き取れなかった場合のストラテジーが育たない

②経験の浅い教師でも教えられるように開発されたようだが、経験の浅い(日本/日本人)をあまり 知らない教師でも教えられる内容なのか?
 【良い点】
  ・教え方の手引きがある
  ・コミュニケーションを円滑にするため(文化差による誤解を防ぐ)の注意書きなどがある
 【悪い点】
  ・話す練習が[教師→学生]という構図で示されているが、経験の浅い教師の発音で大丈夫か?
  ・練習問題の仕方が示されていない。

(Azuの考察)
日本語教師の専門性と創造性について

 まず、「専門性」についてです。
 現在のインドネシアの日本語教師事情はあまり良いとは言えません。
 日本語学習歴のある現地のインドネシア人が教えているのが現状だそうです。
 この点については、JLPT(日本語能力試験)や観光通訳士などの資格を備えた人材の確保が望ましいが、実際は難しい課題のようです。

 また、「創造性」については、教科書の内容に対するものです。
 1.具体的な練習方法が提示されていない
   教科書は経験の浅い教師でも教えやすいようにという目的で内容が構成されているが、
   付属のCD(リスニング用)をどこで使うかが提示されていない、「~しましょう」などの具体的な
   指示が示されていないなど、実際は練習・指導方法が明確でない。
 2.マンネリ化・形骸化の懸念
   学習の流れが分かりやすいということは学習者の利益にもなるが、教師がそれに甘んじて
   ただ教科書の構成に沿っていくだけでは、「学習・教育の創造性」が失われるのではないか。




今回、初めてインドネシアという国の教材に触れることができました。
この「観光専門学校のための日本語教科書」が物語るのは
国の文化や経済、つまり内実・状況によって言語教育の在り方も変わるということです。
そのための教科書、教材、試験、等々…学ぶ目的の違いが学習の内容にも影響します、

また、言語教育を行う上で大きな課題となるのは、「質の高い人材の確保」だと感じました。
ネイティブの教師がいるのが理想的ですが、教える側また学校側もいつでも万全の体制をとれるわけではありません。
「経験の浅い教師にも」という願いが込められているこの教科書も、やはり、日本語そして教育に関して見識を深め経験を積んでいる人物なら、同じ内容でも様々な活動の工夫が可能になると思います。

以下の参考文献では、この教科書を作成していく過程での工夫や、現場の教師の意見も知ることができます。



参考文献

エウィ・ルシアナ、山下美紀、森本由佳子(2006)
インドネシアの専門高校観光部門観光サービス業務専攻用日本語教科書
 『インドネシアへようこそ』作成報告
 国際交流基金日本語教育紀要(2), pp121-126, 独立行政法人国際交流基金




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