こんにちは!
「海外の日本語学習用教材の分析」シリーズ
前回のインドネシアに引き続き、今回はオーストラリア編です!
オーストラリアの教材について発表してくれたペアは
小学校から高校まで、様々な学年で使用されている教科書と実態を調査しました
まず、オーストラリアの初等・中等教育課程についてです。
順番としては次のようになります
①小学1年生に先行する1年間(義務)
②初等教育(義務)
③中等教育前期(義務)
④中等教育後期(任意)
日本の全国一律な6・3義務教育とは異なり、州によって教育制度が異なるところが特徴。
学年・在籍年数が多少前後します。
日本語教育については、初等・中等教育課程に学習者が集中しており
専門的な言語学習よりも、文化・国際理解が中心になっているようです。
多民族国家であるオーストラリアは、日本語だけでなく様々な言語政策が行われ、
アジア地域の移民や交流が増えたことも相まって、LOTEやNALSASなどが実施されました
スライドに見られる「LOTE学習の目標」からは
言語学習を通して多様な分野での学びを目指す姿勢が伺えます
次に教科書の紹介です。
こちらは初等教育課程で使われている教科書のひとつで、内容の特徴としては以下の点が上げられます。
①トピックシラバス型
「かぞく」「どうぶつ」「あいさつ」など身近なトピックを扱い、文法に関する記述はない。
②会話は基本的に普通体を使用、目上の人に話しかける時は丁寧体
「なまえ、なに?」「ぼく、けん」 ※助詞が脱落していることも目立ちます
「おなまえは?」「すずきけんです」
③文化的事象はあくまで「紹介」に留まるイラストと解説が書かれている。
一方、中等教育課程では、『おべんとう』と『高校生活』という教科書が使われています
『おべんとう』の1課の構成は以下の通り
①導入(マンガ)
②場面理解とロールプレイ
③実際の使用場面を見る
④表記の練習
⑤文型理解
⑥文化紹介
⑦トピック
⑧遊び
⑨関連フレーズの紹介
『高校生活』は以下のようになります
①文法事項
②ロールプレイ
③読み
考察
(発表者より)
①文化の取り扱いについて
「日本文化的」な事象を取り上げて興味を持たせることで異文化・新しい価値観を得るチャンスになるが、ステレオタイプ形成につながらないか?
→「異文化を知る」=「自分たちと異なる価値観を持つ人がいる」ということに「気づく」ことが重要
であり、提示の仕方を「見せる・教える」から「考えさせる、気づかせる」に転換する必要がある。
文化は伝統的なものもあれば流動的なものもあり、「発見する」喜びを教師が授業の中で工
夫して創っていくべきである。
②ミドルイヤーズの間での連携
初等教育から中等教育に移る間で、学習上の繋がりがもたれているのか?
→州と地域によって制度が違うオーストラリアのような国では、移動する子どもたちは一貫した教
育システムの中で教育を受けることが難しい。言語教育においても同じことが言える。
州や学校をまたいで日本語を学ぶ生徒にとって、アプローチや構成の違いによって学習意欲
の変化が起こる可能性が考えられる。
(Azuの考察)
発達段階と学習内容の関連性について
言語教育で何を目標・目的にしているか?
正確さ・正しさ・適切さを求める?
「伝わる」を求めるのか?
→小学生に文法・文型の正確さを求めてもつまらなくなるだろうし、高校生に簡単な会話や文化
的要素だけを提示しても有意義ではない。発達段階に合わせた目標と学習内容を設定し、活
動内容も一方的な「教授」ではなく、言語をきっかけとした文化理解の側面を促進すべきではな
いか。
オーストラリアの教材や教育制度からは、言語学習に関する課題が色々見えてきました。
日本の英語教育も小学校低学年から始めようという動きが盛んになっていますが、小学校→中学校→高等学校へと連携を図りながらするのと、ただ機関ごとに個別的に学習するのでは、やはり成果に差が出てくるのではないでしょうか。
教科書がただあればいいのではなく、学習目標や発達段階も考慮に入れた上で適切な教材を選び、授業や活動を創造するのが教師に求められていると考えました。
オーストラリアの言語学習については以下の文献も参考になります。
参考文献
ジョナック
キャシー・根岸ウッド日実子・松本剛次(2008)
「オーストラリアの初中等教育における外国語教育の現在と国際交流基金シドニー日本文化センターの日本語教育支援 ―Intercultural
Language Teaching and Languageの考え方を中心に―」
『国際交流基金日本語教育紀要』第4号、国際交流基金、pp115-130