2014年2月4日火曜日

海外の日本語学習用教材の分析 - オーストラリア編

こんにちは!
「海外の日本語学習用教材の分析」シリーズ
前回のインドネシアに引き続き、今回はオーストラリア編です!

オーストラリアの教材について発表してくれたペアは
小学校から高校まで、様々な学年で使用されている教科書と実態を調査しました




まず、オーストラリアの初等・中等教育課程についてです。

順番としては次のようになります
①小学1年生に先行する1年間(義務)
②初等教育(義務)
③中等教育前期(義務)
④中等教育後期(任意)

日本の全国一律な6・3義務教育とは異なり、州によって教育制度が異なるところが特徴。
学年・在籍年数が多少前後します。




日本語教育については、初等・中等教育課程に学習者が集中しており
専門的な言語学習よりも、文化・国際理解が中心になっているようです。



 


多民族国家であるオーストラリアは、日本語だけでなく様々な言語政策が行われ、
アジア地域の移民や交流が増えたことも相まって、LOTEやNALSASなどが実施されました

スライドに見られる「LOTE学習の目標」からは
言語学習を通して多様な分野での学びを目指す姿勢が伺えます




次に教科書の紹介です。
こちらは初等教育課程で使われている教科書のひとつで、内容の特徴としては以下の点が上げられます。

①トピックシラバス型
  「かぞく」「どうぶつ」「あいさつ」など身近なトピックを扱い、文法に関する記述はない。
②会話は基本的に普通体を使用、目上の人に話しかける時は丁寧体
 「なまえ、なに?」「ぼく、けん」 ※助詞が脱落していることも目立ちます
 「おなまえは?」「すずきけんです」
 ③文化的事象はあくまで「紹介」に留まる
 イラストと解説が書かれている。



一方、中等教育課程では、『おべんとう』と『高校生活』という教科書が使われています

『おべんとう』の1課の構成は以下の通り
①導入(マンガ)
②場面理解とロールプレイ
③実際の使用場面を見る
④表記の練習
⑤文型理解
⑥文化紹介
⑦トピック
⑧遊び
⑨関連フレーズの紹介

『高校生活』は以下のようになります
①文法事項
②ロールプレイ
③読み





考察

(発表者より)
①文化の取り扱いについて
 「日本文化的」な事象を取り上げて興味を持たせることで異文化・新しい価値観を得るチャンスになるが、ステレオタイプ形成につながらないか?
 →「異文化を知る」=「自分たちと異なる価値観を持つ人がいる」ということに「気づく」ことが重要
  であり、提示の仕方を「見せる・教える」から「考えさせる、気づかせる」に転換する必要がある。
   文化は伝統的なものもあれば流動的なものもあり、「発見する」喜びを教師が授業の中で工
  夫して創っていくべきである。

②ミドルイヤーズの間での連携
 初等教育から中等教育に移る間で、学習上の繋がりがもたれているのか?
 →州と地域によって制度が違うオーストラリアのような国では、移動する子どもたちは一貫した教
  育システムの中で教育を受けることが難しい。言語教育においても同じことが言える。
   州や学校をまたいで日本語を学ぶ生徒にとって、アプローチや構成の違いによって学習意欲
  の変化が起こる可能性が考えられる。

(Azuの考察)
発達段階と学習内容の関連性について

言語教育で何を目標・目的にしているか?
 正確さ・正しさ・適切さを求める?
 「伝わる」を求めるのか?
 →小学生に文法・文型の正確さを求めてもつまらなくなるだろうし、高校生に簡単な会話や文化
  的要素だけを提示しても有意義ではない。発達段階に合わせた目標と学習内容を設定し、活
  動内容も一方的な「教授」ではなく、言語をきっかけとした文化理解の側面を促進すべきではな
  いか。





オーストラリアの教材や教育制度からは、言語学習に関する課題が色々見えてきました。
日本の英語教育も小学校低学年から始めようという動きが盛んになっていますが、小学校→中学校→高等学校へと連携を図りながらするのと、ただ機関ごとに個別的に学習するのでは、やはり成果に差が出てくるのではないでしょうか。

教科書がただあればいいのではなく、学習目標や発達段階も考慮に入れた上で適切な教材を選び、授業や活動を創造するのが教師に求められていると考えました。

オーストラリアの言語学習については以下の文献も参考になります。


参考文献

ジョナック キャシー・根岸ウッド日実子・松本剛次(2008)
「オーストラリアの初中等教育における外国語教育の現在と国際交流基金シドニー日本文化センターの日本語教育支援 ―Intercultural Language Teaching and Languageの考え方を中心に―」
『国際交流基金日本語教育紀要』第4号、国際交流基金、pp115-130

海外の日本語学習用教材の分析 - インドネシア編

こんにちは!
昨日の陽気が嘘のように、今日は関東にも寒波が到来
雪も降り、積もった所もあったようです





前回はAzuが発表担当した「韓国編」のレポートでしたが
今回は別のペアの発表内容についてレポートしたいと思います(^^)

まずはインドネシア編です!
今回は、観光専門学校で使われている教科書の紹介です





まず、インドネシアの日本語教育事情についてです。
主な学習者・現場は中等教育に偏っており、増加の傾向にあります。
これは2006年に施行された新カリキュラムによって第二外国語が選択必修となったことがきっかけです。

普通高校や宗教高校でどの程度言語教育が行われているかは未知ですね…
将来的に仕事で日本語が必要になるであろう専門高校の方が活発なのかもしれません。






















次に、『インドネシアへようこそ』の概要です。
これは観光専門学校で実際に使われている日本語の教科書です。

教科書の最大の特徴は、第1冊がローマ字表記、第2冊が平仮名表記されているところです。
<ひらがな→カタカナ→漢字>という流れで表記や発音を学ぶ教科書が多いのですが
観光業ということを意識してか、会話や聴くことに力を入れられるようにしている印象を受けます。
(非漢字圏の学習者には、文字学習だけでもかなりの負担になりますからね…)

観光サービスという、外国語の使用が必須になる仕事が見据えられているため
学習目標や内容も「観光」の色をかなり強く打ち出しています。























1課の構成は以上のようになっています。
導入→会話→語彙・文型→会話練習→確認問題の流れですね。

観光業務の具体的な場面が設定されているため
「どのようなシチュエーションでその表現が使われるのか」が分かりやすいと思います。

ただ、この1課に「5コマほどの時間をかける」と別冊の指導案には書かれているそう…
テキストの内容だけでは5コマも活動を創出できるのだろうかという疑問は残ります。




考察

(発表者より)
①実用目的でコミュニケーション能力向上が目的のようだが、内容が目的に適っているか?
 【良い点】
  ・導入で場面のイメージから学習内容を想起できる
  ・会話例や会話練習が自然な日本語に近い(例:「あ・・・」「~なんですが・・・。」など)
  ・卒業後の進路に密接している(実際に直面するであろう場面設定がなされている)
 【問題点】
  ・タスク活動が少ない=話す活動が少ない=やり取りがない(代入練習に留まっている)
   →コミュニケーション能力が向上するのか?
   →卒業してすぐ使える日本語を身に付けられるのか不明
  ・リスニングがない(テープを使うところがわかりにくい)
   →耳が育たない(実用目的だと「聞く」能力も必要では?)

   →聞き取れなかった場合のストラテジーが育たない

②経験の浅い教師でも教えられるように開発されたようだが、経験の浅い(日本/日本人)をあまり 知らない教師でも教えられる内容なのか?
 【良い点】
  ・教え方の手引きがある
  ・コミュニケーションを円滑にするため(文化差による誤解を防ぐ)の注意書きなどがある
 【悪い点】
  ・話す練習が[教師→学生]という構図で示されているが、経験の浅い教師の発音で大丈夫か?
  ・練習問題の仕方が示されていない。

(Azuの考察)
日本語教師の専門性と創造性について

 まず、「専門性」についてです。
 現在のインドネシアの日本語教師事情はあまり良いとは言えません。
 日本語学習歴のある現地のインドネシア人が教えているのが現状だそうです。
 この点については、JLPT(日本語能力試験)や観光通訳士などの資格を備えた人材の確保が望ましいが、実際は難しい課題のようです。

 また、「創造性」については、教科書の内容に対するものです。
 1.具体的な練習方法が提示されていない
   教科書は経験の浅い教師でも教えやすいようにという目的で内容が構成されているが、
   付属のCD(リスニング用)をどこで使うかが提示されていない、「~しましょう」などの具体的な
   指示が示されていないなど、実際は練習・指導方法が明確でない。
 2.マンネリ化・形骸化の懸念
   学習の流れが分かりやすいということは学習者の利益にもなるが、教師がそれに甘んじて
   ただ教科書の構成に沿っていくだけでは、「学習・教育の創造性」が失われるのではないか。




今回、初めてインドネシアという国の教材に触れることができました。
この「観光専門学校のための日本語教科書」が物語るのは
国の文化や経済、つまり内実・状況によって言語教育の在り方も変わるということです。
そのための教科書、教材、試験、等々…学ぶ目的の違いが学習の内容にも影響します、

また、言語教育を行う上で大きな課題となるのは、「質の高い人材の確保」だと感じました。
ネイティブの教師がいるのが理想的ですが、教える側また学校側もいつでも万全の体制をとれるわけではありません。
「経験の浅い教師にも」という願いが込められているこの教科書も、やはり、日本語そして教育に関して見識を深め経験を積んでいる人物なら、同じ内容でも様々な活動の工夫が可能になると思います。

以下の参考文献では、この教科書を作成していく過程での工夫や、現場の教師の意見も知ることができます。



参考文献

エウィ・ルシアナ、山下美紀、森本由佳子(2006)
インドネシアの専門高校観光部門観光サービス業務専攻用日本語教科書
 『インドネシアへようこそ』作成報告
 国際交流基金日本語教育紀要(2), pp121-126, 独立行政法人国際交流基金